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「2つの知恵の源泉を共に活かす」
自己間関係理論をめぐって
"Tapping Into Dual Sources of Intelligence" by Charlie Badenhop

<第1部>
第2部 第3部



この文章は、2004年に発行された書籍『2つの世界を歩く:関係を支える自己―自己間関係理論の実践とコミュニティ』(編纂:スティーブン・ギリガン、デボラ・シモン)の中の一章として書いたものである。
("Walking in two worlds: The Relational Self in theory, practice, and community," edited by Stephen Gilligan and Dvorah Simon, and published by Zeig, Tucker & Theisen, Inc.)

 私が実践してきたことと自己間関係理論による精神療法 [Self-Relations Therapy] が、どのようにつながっているかという点から本稿を始めたい。約25年ほど前に、私は心理学とミルトン・エリクソンの催眠療法を学び始めた。他者催眠と自己催眠のプラクティスによって、私は心身両方の健康状態に対して影響を及ぼす人の思考のパワーの計り知れない可能性に目を開くことになった。

 催眠療法を学んで3年ほど経った頃、友人が日本の武術の合氣道から学んだことを話してくれた。友人が習ったものは、自分のスピリットまたは「氣」と身体を調和させるという心身統一の道だった。まだ一度も道場に行ったことがないにもかかわらず私は彼の話に魅了され、それから2、3年もしないうちに私は日本に住んでフルタイムで合氣道の稽古にはげむ身となった。

 初めの頃、私は催眠と合氣道の主な違いを次のように考えていた。つまり催眠とは頭の中で起こることであり、合氣道は普段とは別の身体の使い方を習うトレーニングだと理解していたのだ。ところが合氣道の先生は、「心」は下腹 [したはら=臍下丹田] に在ると言う。さらに詳しく聞くと、実際のところ「心」は身体じゅういたる所に存在し、そのいくつもの心の「中心」が下腹に在り、私たちはそこから行動を起こし、そこで‘考える’のだ、と。その後いくらか理解が進み、催眠とは頭部に在る「心」(mind)で起こることだと私は推測するようになった。

 ちょうどその頃、アメリカで催眠治療を教える精神療法医スティーブン・ギリガン[Stephen Gilligan] のことを伝え聞くようになった。彼は合氣道の練習やその他の気づきを増すトレーニングから修得したことをセラピーと催眠治療に活かしていた。初めてスティーブンのクラスに向かったとき、それは私にとって故郷に帰るようなものだった。そこは私の母国アメリカであり、センセイ[sensei] はアメリカ人であり、しかもこのセンセイは私が日本で学んできたこととたくさん一致する点をもつセラピー形式を教えていた。私が最初にスティーブンのもとで学び始めたとき、彼は生徒に向かってこう言っていた。「自分の中心を下腹に置きます。自分自身を感じとります。自分の内部にあるこの柔軟な部位で感じることに気持ちを向けてください」私の気持ちは高ぶった。それはまさに、自分の心を下腹に置くという合氣道の精神そのものだったからだ。

 頭部の脳からの指令なしに考えるという合氣道の教えと同じ知恵を、私はスティーブンからも教えられた。それはとても魅力的だった。私が教えている精心道のある生徒から、最近とても有難い言葉をもらった。「先生ほど、考えないことをうまくやれる人を見たことがない!」 それは本当である。合氣道を一定期間習った者なら、実際、理性的精神を自分の主要な知恵の源泉として用いないことが、意識せずに自然にみずから行動し優雅さをもってふるまう能力を支えることが分かるだろう。この点において、合氣道とスティーブンの実践との共通性はより明確になった。人がトランス(変性意識)状態にあるとき、その人の知的な能力は主要な知恵の源泉ではないということが、スティーブンのトレーニングを受けることによって理解できた。

 合氣道では、理性的な判別を必要とせず、何が起こっているのかを察知し対応することを私たちは学ぶ。ときおり生徒である私たちは道場から出て、遊びでゲームを楽しんだものだ。3人の生徒が集まり、テーブルの上に3つの金属のカップを逆さに置く。生徒が後ろを向いている間、先生はチョコレートのかけらのようなちょっとしたものを1つのカップの下に隠す。合図によって生徒は前を向き‘小さなごほうび’が隠れているカップを当てる。なかなか正解できない生徒が多い中、いつも決まって特定の生徒が抜きんでて高いパーセンテージで正解していた。いわば私はこのゲームでキャンディをみんな食べてしまったから体重が増加したのだ、と言いたいところだがそれは違う。ほとんどの生徒と同様に初めは私もハズレばかりだった。それは理性的精神のスイッチをオフにし自分の直感を信頼する術(すべ)を、私が試行錯誤しながら理解し始めた時期である。挑戦的課題を前にしながらリラックスし、とっさの対応をとり、優雅さをもって行動する私たちの能力が発揮されるには、頭ではなく身体に備わった知性が重要な役目を果たすということを少しずつ私は理解した。

 練習をするうちに気づいたもうひとつ重要なポイントは、合氣道のリラクゼーション・エクササイズの感覚は、自己催眠をしているときにとても似ているということだ。合氣道の練習では、身体で経験される自己 [somatic self] へと注意関心の方向をシフトすることによって私はリラックスすることができた。それはちょうど自己催眠で、認知で経験される自己 [cognitive self] の思考のプロセスをシフトさせるときと同じリラックスの方法だった。何度もくり返しスティーブンはこう訊いていた。「今どこにあなたの注意関心は向けられていますか?」「自分の問題を身体のどの部位で感じますか?」この問いに答えるためには、自分の主要な意識の焦点を認知的自己から離し、身体的自己へと向けることが余儀なくされる。

 自己間関係理論に関連した私の実践の、次なるパズルのピースは、ここ日本で「野口整体」として知られている技である。日本語のセイタイとは「正しく構成された身体」を指し、ノグチとはこの整体の創始者の名前である。私が日本に来たとき野口晴哉先生はすでに逝去されていた。しかし先生の後を継ぐ生徒から、自分の身体の新しい使い方と、余剰エネルギーを放出する独特のエクササイズを教えてもらうことができた。野口先生は人の身体はコマのようなものだと言う。「もしコマが回転せずにいたら、もし身体が動いていなければ、それが何のためにあるのかどうやって使うのか分からないだろう」 多くの人は無意識のうちに態勢を保つために筋を緊張させることがパターン化しており、そのために生体システムの内部に過剰なエネルギーを溜めてしまう傾向があるというのが、彼の基本前提のひとつである。先生の言葉によれば、無意識に身体のあちこちを緊張させることは、身体の自然な動きを妨害してしまうことになり、ストレスを生み、生体システムにとって余剰な緊張感として残る。この余剰なエネルギーを抱えることで起こる自然な動きへの妨害が、全般的に健康状態を損ない、疾病の原因となる。健康状態が深刻になればなるほど、さらに過剰なエネルギーを抱えることになる。過剰な身体の緊張を放出すれば、無意識的な身体の動きの変化に気づくだろう。それに伴って自分の思考と感情の変化も経験される。身体の緊張と感情の緊張は同じコインの両側なのだ、と野口先生は言う。スティーブンの自己間関係理論でも同様のことが述べられている。

 私が理解する野口整体の2番目の基本前提は、意識的な精神が出す指令によって動くことを最小限にするために、無意識に身体がつくり出す組織的パターンを認め奨励する方法を見つけようというものだ。
 意識的な思考プロセスはふつう無意識の身体の緊張を伴うという単純な理由から、ほとんどの場合、意図的に故意に身体が示すパターンや姿勢を変えることによって自分が望む結果が得られることは稀である。行動するときに神経システムと筋とを緩めるよりはむしろ固まらせてしまうからだ。自己間関係理論では、問題となっている思考、感覚、行動を変えることが望まれるときに、もとの問題をつくり出したときと同じ精神を使うことは有効でなない、と言われる。多くの場合、意識的な精神を主要な知恵の源泉として用いることは求める結果を得るための適切な方法ではない。
 野口先生は、自然に起こってくる身体の動きに身をゆだねることによって無意識のうちにかかえこまれた過剰エネルギーを放出できる特別なエクササイズを発展させた。
 それらのエクササイズを実践してみてすぐに分かったことは、ちょうど合氣道や自己催眠のプラクティスをしたときの経験ととても似ているということだった。この地点において、1つは頭部に(認知的自己)もう1つは下腹に(身体的自己)位置する人間だれもが持つ2つのコントロールの中心を、私は身をもって体験し始めた。

 心理的戦略を用いて人の行動に影響を及ぼすことは、無意識的に生じた身体の知性にゆだねて人の行動に影響を及ぼすこととは異なってはいるものの、互いに補足し合う経験である。例えば、広く知られていることだが、うまく作成されたアファメーションやマントラは日常を有意義に過ごすことに役に立つ。聴衆の前でうまく話せるようになりたいというクライエントに対して私はしばしば、リラックスし、自信にあふれ、聴衆を楽しませるような効果をもつマントラを作るように勧める。こういったマントラはたいていは有効である。しかしながら、もし実際に人前に出たときに、肩に力が入り、背中が曲がり、浅い呼吸をしていることをクライエントが意識したなら、マントラの効果は薄れてしまう。
 1つは姿勢、動き、呼吸によって示される身体的自己とのつながり。もう1つは意識的にマントラを唱えている認知的自己とのつながり。その両方に同時に注意関心を与えることによってはじめて個人の最高のパフォーマンスが発揮されるのである。両方の‘自己’に同時に耳を傾けることで、私たちは最も素晴らしい成果が得られる。マントラをくり返しながら、同時に自分の生体で起こっていることを感じとり、リラックスさせ、身体の「氣」を広げることが必要なのだ。

 個人とのセッションを行ってゆきながら、呼吸と姿勢と無意識の身体の動きに自分の調子を合わせることをクライエントに教えることによって、私はリラックスした気づきの状態へ導くことを試し始めた。クライエントには椅子に浅く腰掛けてもらい、数回の深呼吸、それからどんな動きであれ自然に動かしたい動きにまかせながらゆっくりやさしく姿勢を調整した。「ジム、あなたに話しています。どうか身体を動かそうとせずに、どんな動きであれ、身体それ自体が動くのにまかせてください。ジム自身が割って入ることなく、いつでも身体自体が動くままにしてください」セッションを進めるうち、すぐに次のような様子が見られた。意識的に姿勢を変えようとしたり自分がどうするか指令を出さずに動くことで、人々は自分の身体の感覚をいきいきと感じるようになり、意図的な介入なしに、身体はそれ自体がシフトし始める。身体が必要としているものは身体が知っているのだ。このことから私は、意識変容状態に入ろうとするときには、頭脳で生じる言語コミュニケーションへの影響に敏感になることと同様に、身体とのコミュニケーションへの影響にも敏感になることが重要なのだと理解するに至った。
 私自身のプラクティスとクライエントとのセッションはうまくいっていた。けれども、それぞれの人がもつ身体の知性と、認知の知性の2つを調和させて働かせる方法の、完全なモデルを私はまだ持っていなかった。そして自分が探している欠けたピースはおそらく理性と身体との間のコミュニケーションをさらに促進させることに含まれているのだろうと思うようになった。最終的に人々と作業するときの統合されたモデルになったのが、現在「自己間関係理論」という名で呼ばれているスティーブン・ギリガンの精神療法である。私たちに備わった2つの知恵の源泉、すなわち認知的自己と身体的自己の知性とを、ひとつの経験へとつなぎ合わせるこのモデルは「関係を支え維持する自己」[relational self] と呼ばれる。自分のことを認知的自己と身体的自己との間で経験される‘つながり’なのだと捉えるなら、このつながりを外の世界との相互のやりとりに広げることで私たちは健康的で幸福な感覚をもつことができるのだ。

「精心道」の基本概念

 私が発足させた活動「精心道」の基本概念を以下に示そう。この説明は自己間関係理論のさらなる理解を助け、そしておそらくは、自分の周囲の世界に対する考えと対応のしかたに関していくらかの洞察を提供できるだろう。<つづく> 次のページ

参考文献:野口晴哉:著「整体入門」(ちくま文庫)
"Order, Spontaneity and The Body" by Haruchika Noguchi;
Zensei Publishing Company, Tokyo, Japan.


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